高齢化社会・女性の社会進出・医療技術の進歩・定年制度の見直し等
企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。
企業を支える社員が安心して、ライフイベントと仕事の両立を図れる環境を提供する事で
経営陣と共に、企業を成長させる一員として社員が独自のスキルを使い活躍してくれることでしょう。
そこで先陣をきって両立支援の取り組みを行っている、企業様の事例からヒントを得られるようインタビューし、ご紹介していきます。
お話を伺った方:
野村證券株式会社
人事企画部ヘルスサポートグループ
河野和絵様
野村證券株式会社
保健師
高野真理子様
目次:
・従業員の健康の為の取り組み
・両立支援の取り組み
・復帰前の罹患者が準備すること
・復帰後の業務変更
・まずは何に困っているのか聞く
・職場内管理者の知識を均一化
・仕事と治療の両立が普通の事になるように
従業員の健康の為の取り組み
―治療と仕事の両立をサポートするために、両立プランシートの活用をはじめとした積極的な支援体制を整えていらっしゃる野村證券株式会社の取り組みについて教えてください。
河野様:2016年から「NOMURA健康経営宣言」を採択し、健康経営を推進しています。例えば2021年からは就業時間内の禁煙を導入し、喫煙室を廃止。30歳以上だった子宮頸がん検診については、健保組合の補助で20歳代から受診できるようにいたしました。目標としては野村證券が健康経営を推進することで社員自身が健康になることはもちろん、取引先、お客様が健康経営を推進し、社会全体が健康になることをめざしています。
両立支援の取り組み
河野様:弊社は証券会社という特性から全国に支店があり、社員も散らばって働いています。
がんなどの病気で休んだ社員が復帰するときに、出来れば主治医、産業医、本人、部署が一堂に会して面談できれば望ましいのですが、時間的にも場所的にも難しいです。その為、病気で休業する前に、復帰時に必要な書類を前もって渡しています。(対象者はメンタルヘルス関連の病気、脳・心血管疾患で7日以上、身体的な疾患で1か月以上休む社員)
流れはフローの通りですが、まず①休み始めたら人事から療養中の注意点と職場復帰に関する手続きについてのガイドブック(本人編)を送付。②本人はそれを基に復帰後の業務について考え所属部署と相談して書類を作成し、③主治医と相談し意見書を書いてもらいます。④その意見書を基に部署と面談し、⑤産業医と具体的なプランに落とし込んで⑥復帰する。⑦復帰後は医療職がフォローするという流れです。
―ガイドブックを渡すようになったのは?
河野様:これまで復帰までの準備や手続きについてイントラサイトに載せていたのですが、
休職前にイントラサイトを確認できないこともあり、今は治療と仕事のガイドブック(本人編と上司編を用意)を渡して休んでいる間に復帰について考えてもらうようにしています。
―その他の支援については?
高野様:イントラサイトで社内のがんサバイバーや、他の病気と両立している社員の体験談を紹介しています。また、医療職を両立支援サポーターとして紹介しているのでがんに罹患している部下に対する対応についての相談や、がん治療を受けている社員からの相談を受けたりしています。相談は少しずつ増えてきている印象ですが、まだまだ社員全てには広がってないので、いつでも相談できるという意識が広がっていくとよいと考えています。
復帰前の罹患者が準備すること
―罹患者は復帰する前に会社にどのようなことを伝えたらいいですか?
高野様:病名だけではなくこれからどのような方向に進むのか伝わるように書類に記入していただきたいです。化学療法、放射線療法をどれくらいの期間行うのか、今後の見通しや、会社として何に気を遣ったらいいのかを具体的に知りたいです。例えば営業職はお客様と会うため、感染予防にも気を遣います。営業を続けていいのか、やめた方がいいのかとか、乳がんなら重いものを持つのが辛いとか、オンラインの方がいいとか、因数分解していってもらって、必要な合理的配慮を伝えてほしいです。そのためにも主治医に現場が伝わるように情報を伝えることが必要です。
―両立プランシートは誰が作るのですか?
高野様:復帰前の面談で部署と本人が一緒に作ります。そこで1か月後、3か月後はどれくらいの仕事をするのか書いてもらい、出来上がったものを産業医と医療職で確認し、部署と見通しを共有します。
復帰後の業務変更
―治療中に体調が変化したり、治療方法が変わったりする場合もありますが、例えば外回りからデスクワークに業務転換はできますか?
河野様:外に出ないで、社内で営業する部署への配置転換や、配置転換まではいかなくても治療中はお客様との面談を自宅からオンラインで行うといった配慮が出来ます。こうしたいという希望を伝えていただければできる限り対応していきたいと思います。部署と面談するだけで解決できない場合は、会社ぐるみで考えることもしています。
―自分の病気を伝えるのは、会社ではマイナスだと心配する人がいます。
河野様:そう思う人もいますが、社員向けの研修等ではそうではないと伝えています。マネジメント側からは、病気の時は治して元気になったらまた働いてほしいと伝えています。全社員対象のアンケートで当社は仕事と治療の両立できる環境にあるか聞いていますが、肯定的な回答が3年間で約15パーセント増えています。
まずは何に困っているのか聞く
―支援する立場として気をつけることは?
高野様:罹患状況によって人事制度、お金の事、医療のことなど困っていることがバラバラですし、ご本人が整理、優先順位がついてない場合があるので、まずは何に困っているのか聞くようにしています。その上で、人事や窓口にバトンを渡すようにしています。
職場内管理者の知識を均一化
―今の課題これからの課題は?
高野様:今までも医療職から研修等で教育をしていますが、上司の中でも『がんは個人差があるのでどのような配慮をしたらいいか』と相談してくる人や『がんの人にどのような態度をとったらいいかわからない』という人もいて、理解の個人差が大きいです。
河野様:課題は職場内管理者の知識を均一化することです。現在は知識や対応力がそれぞれですが、知識レベルの均一化をすることによって、どこの職場に復帰しても働きやすくなることを目指しています。
仕事と治療の両立が普通の事になるように
―仕事と治療の両立について一言
河野様:会社としては一通り制度や支援体制をそろえていますが、社員一人一人、そして上司に認識してもらうための啓発活動を進めることと、がんになってもやめないで欲しいということを訴えつづけたいと思います。
高野様:まだまだ道半ばですが、仕事と治療の両立支援が社会的にももっと広がっていけば良いと思っています。がんは誰がなってもおかしくない病気ですので、社会が仕事と治療を両立することが普通の事だと捉えてもらえるように尽力したいと思います。
―患者は、会社が知りたいこと、伝えるべきことは何か整理し、出来ないことより働き続ける為にどうしたらいいかを同僚や上司と相談して会社へ報告、提案をすることが大切ですね。今後とも御社のご発展をお祈りしております。本日はどうもありがとうございました。
2022年6月1日
聞き手:がんと働く応援団 吉田ゆり
文 章:小野順子
写 真:野村證券株式会社提供
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